対話で知る世界史 はじめに
――コンコン
「はーい、入ってー」
「・・・失礼します」
「誰ー?」
「・・・」
「ん?・・・え?」
そこにいたのは1年前の卒業生。
「新藤優菜です」
「優菜!久しぶりー!」
意外すぎる卒業生だった。卒業してからも自分のところを訪ねてくるのは、高校時代に世界史が大好きだった子が多い。「世界史の影響でこの国に行ってきました!」とか、近況報告をするためなど。新藤優菜は間逆で、世界史を選択したのが明らかに間違いだったようなタイプの女子だった。
優菜は、高校時代から容姿が目立つタイプで、ダンス部に所属して高校時代を恋愛とダンスに捧げていた(というか、そう見えていた)。世界史はいつも50点に届かず、お世辞にも世界史が得意とは言いがたかったし、全く好きそうでもなかった。そんな彼女が一体自分に何の用事があるというのだろう。
「想像通りに金髪でメイクもばっちりだね。大学生満喫してるねー」
「・・大学はまぁーとりあえず行ったり行かなかったり」
「それも想像通りだわ。ゆっくり学べる機会なんて人生でそうそうないんだから、大切に時間過ごすんだよ」
「・・うん・・・」
「お金の面で恵まれてればだけど、大学生ほど自由な時間がある人種もいないんだから、恋愛ももちろん良いけど、勉強もちゃんとやらないと人生がもったいないからね」
「うん・・」
「って優菜は勉強よりやっぱりダンスサークルかな。ダンスうまかったもんねー」
「まぁ、ダンスは続けてるんだけど・・」
どうも歯切れが悪い。会話が盛り上がらないというか、これ以上何を聞いたらいいのか・・・たいていは止まらなくなるほど自分から話してくるんだけど・・あ!一つ思い出した。
「そういえば優菜、高校時代、大学出たら社会に出ないで結婚したいって言ってなかったっけ?」
「言ったと思う・・」
「今も変わらない?」
「うーん・・ちょっと変わった」
「そうなんだ!じゃあちゃんと就活して就職するんだね!いいと思うけど、なんで考え変わったの?なんかきっかけとかあった?」
「・・・先生!!!!一生のお願い!!!!!」
「な・・何?」
「世界史教えてー!!!!!!!!!!!!!!!」
・・・・・・・・・え?
「え!?」
「ほんとお願い!!!」
一体新藤優菜に何があったんだ。怖すぎる。
「えーと、2年間十分すぎるくらい、毎日のように教えてたわけだけど、というか2年間苦痛そうだったけど、なんでまた今さら・・?」
「今付き合ってる彼が・・・」
何十人目の彼かなー。
「すっごい歴史好きなの。で、楽しそうに話してるんだけど、ちんぷんかんぷんで」
そりゃまぁそうでしょうよ。
「そんなに楽しそうなのに一緒に盛り上がれない自分も悲しいし」
「彼のために学びたいってこと?」
「最初はそんな感じだったんだけど、そんなこと思いながら最近のニュースとか見てたら・・・イギリスがEU離脱するとか、なんか世界中テロだらけだし。超不安になってきて。2年間も世界史学んで背景とか何も知らない自分が悔しくて。だってきっとイギリスもEUもイスラーム教も全部教わったのに、ほんと何もわかんない」
「まぁそうだね、間違いなくやってはいるけど」
「で、どうしようって。今までそんなこと考えたこともなかったから何をどうしたらよいのか見当もつかなくて。大学の歴史の授業とかわけわかんないし。なんか、南宋の訴訟とか永遠にやってたりとか、全然意味わかんない。なんであんな授業でいいのってほんと思うんだけど。シラバスに東洋史とか書いてあんのに半年南宋の訴訟やるとかマジわけわかんない。通史やれよって思うし。てゆーか西洋史もそうで。なんかずーっとハプスブルク家のなんちゃらやってんの。ハプスブルクもういいわって。それだけやっててハプスブルクがなんなのか結局何もわかんないっていう。はぁ?って。高いお金払ってるんだから、ちゃんとタメになることやってよって思いまくる」
わかるわかる。超わかるよその気持ち。
「まぁもちろんあたしが頭悪いせいでもあるんだけど。高校時代も、わかんないことだらけだったからいろいろ聞きたいと思っても、わからなさすぎて何聞いたらよいのかもわかんないし、クラスの女子の世界史愛が凄まじすぎて、あの輪にはとても入れなかったし・・世界史の定期テスト前とか、日本史組にドン引かれるほど気合がすごくて。あたしなんかもう完全に蚊帳の外的な。みんなで問題の出し合いとかしてるけど、ついていけるわけもなくて」
・・・なるほどね。確かにあの学年の世界史愛は凄まじかった。
「優菜は、高校世界史をやり直したいの?」
「うーん・・高校世界史っていうか、それもそうなんだろうけど・・どうしたらいいかわかんなくて、先生に聞きに来たって感じ」
「なるほど・・だいたいわかった。要は、世界史の細かい知識がどうじゃなくて、現代世界を見るための視点がほしいってことだよね。実は高校の世界史だけだと、EUに含まれる本質的な部分とかはみえてこない。イスラーム教を学ぶだけだと今回の問題の根幹は見えてこない。そこまでやる時間とか実際ないしね。なんでこうなるの?ってことを自力で歴史から学ぶのは相当難しいと思う。こういうことを知りたいんじゃないの?あくまで視点は現代社会にありってことでしょ?」
「あ、うん!そう、そんな感じ!!そう!!!凄い、なんでわかるの?」
「いろんな人から結構同じような相談受けるからねー。世界史勉強したいけど、何から手をつけたらいいかわからんって。でも、そういう人たちは、世界史そのものというより、今を知るために世界史を知りたいんだと思う。世界史そのものが好きなら、とっくに自力で好きな分野の本読んで満足してるだろうし」
「そっかーなるほど!確かにそうかも」
「むしろ早いと思うよ。しかしまさか優菜からこんな相談受ける日が来るとはだよ・・」
「だよねーあたしから勉強の話とか信じらんないよね。あたしが一番信じられないもん!
でも、やっぱり世界史といったら先生しか出てこなかったー」
人は何がきっかけで変わるかなんてわからないもの。そういえば、大学院でゲーテ研究していたときに、研究テーマにしていた『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の中の理想的な教育を行う団体で一番尊敬されている人物が、“いま目の前にいる子供で判断するのではなく、その子の将来の姿を見据えてその子と関わるべき”みたいなこと言ってたけれど・・これがなかなか難しい。教師になってみて痛感するのが、勉強を教えることと人を育てることはまったく違うということ。
「実際私に相談する前に何かしら行動はしてみたの?」
「本もいろいろ見てみたし、なんかそういう歴史とか学べる講座とかないかなって思っていろいろ調べたんだけど、こう・・なんていうか、さっき先生がいった感じで学べるようなところって見つけらんなくて。それっぽいのがあってもなんか違うんだよなーってちょっとした違和感が。ネットで検索しても、そういう社会人とかが学べるところってないですかって質問があるんだけど、だいたい答えが本読むとか放送大学しかないっていう。教科書読めっていわれても、それもなんか違うっていうか・・」
「わかった優菜。私が教える。でも二つ条件。これは必ず。次に会うときまでに、これから渡す世界地図の記号がある国の名前は全部覚えること。もう一つは、学んだ内容は必ずレポートにして次までに提出。これでどう?」
本当に本気なのかこれでわかる。
「うっ・・世界地図・・・苦手すぎる・・」
「そもそもそれがわかってないからわかんないの。というか、世界地図もロクに知らずにどうやって世界史勉強するの!って優菜が高2のはじめにも言ったと思うんだけどね」
「・・・確かにそうだった。出だしで挫折した感半端ないし。先生ありがと!!超頑張るからお願いします!!!」
「OK!この講習を通して、現代社会を理解する力はもちろん、未来を見通す力を手に入れることが目標だからね」
「未来わかるの!?すごーい!」
ということで、新藤優菜との秘密の講習が始まった。
* * * * * *
世界史を対話形式でわかりやすく伝えられないかなぁと思って、対話形式で進めていくために、架空の卒業生を設定しました(*´ 艸`*)
架空です架空。
この設定なしにいきなり内容載せてもワケ分からないので、今回は中身がなくてすみません><
次回から、内容を少しずつ載せていければと思います。
終わる頃に、一つの壮大なストーリーになっていますように・・
目標は、最終的に現代社会を理解して先の予測もできるようになること、なんだけどさすがに難しいかなー
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